概要定義
多心的エディット(Multi-Aspect Editing)とは、編集者の内側にある複数の“人格”や“感情の声”を、意図的に切り替えながら編集に活用する実践的な編集手法です。
執筆・編集・表現の過程において、「論理的な私」「感情的な私」「過去を覚えている私」「未来を見ている私」など、一人の中にある多様な視点(=多心性)を編集に動員することで、より立体的で、深層に響く表現を可能にします。
なぜ“多心性”を編集に取り入れるのか?
編集という行為は、単なる情報整理ではなく、読者と世界の“あいだ”に立ち、意味の通路をつくることです。
しかし、多くの場合、編集者は「一つのトーン」「一つの主語」にとどまりがちです。
それでは複雑な感情や関係性、異なる文脈を織り込むことができません。
多心的エディットは、「一人の中の複数性」に気づき、
それを編集のツールとして活用する実践なのです。
多心的エディットの構造と実践ステップ
構成要素 | 内容 |
---|---|
内的視点の切り替え | 書き手の中にある“複数の私”を意識的に使い分ける(例:「優しさで読む私」と「構造で読む私」) |
視点間の対話 | 異なる視点同士を対話させるように、矛盾を抱えたまま編集する |
声の配置 | 各“人格”が語る言葉を場面や文脈に応じて配置し、共鳴と違和を設計する |
読者との重なり | 読者の中の“複数の声”とも共鳴するように設計し、多層的な読後体験を促す |
実践例:ACSUREにおける多心的エディット
ACSUREでは、以下のように多心性を編集に取り入れています:
- たなかえり/田中恵理など、人格を役割で分けて執筆(編集長、構造デザイナー、語り手など)
- 読者との間に「モッシュ」「ポンちゃん」などキャラクターによる多声的導線を設置
- 一つの問いに対して、複数の内的解釈や立場から書き分ける構成
- 読者自身が「自分の中の声」に気づくきっかけになるよう設計
これは、内的な編集環境をメディアそのものの構造に拡張した設計です。
■ 関連する概念との関係性
概念名 | 関係性の解説 |
---|---|
🟠 感情構造デザイン(ESD) | 感情の流れを扱う際に、内的な声の多様性を活用する。多心的エディットはその技術基盤。 |
🟢 CETメディア | 感情と問いに応えるために、内的対話を設計に取り入れる視点が重要となる。 |
🟠 納得主義 | 編集者自身が納得するまで、内なる声と対話を続けるという思想と重なる。 |
🟢 関係価値編集(RVE) | 多心的な編集は、他者との関係以前に“自己との関係”を深める出発点。 |
学問的背景と理論支柱
学問領域 | 内容 |
---|---|
編集論 | 編集者の視点操作、関係構造、語りの設計に関する実践理論。多声性の導入と再構成。 |
認知心理学 | 人間の思考や感情が、単一ではなく多面的に働くことの理解に基づく。 |
内的対話論(Voice Dialogue) | 人の中にある複数の「内的パート(内なる声)」と意識的に対話する心理的手法。 |
英語表記・略称
- Multi-Aspect Editing(多心的エディット)
- 略称は必要に応じて MAE と表記
英語圏では “polyphonic narrative”(多声的語り) や “editorial multiplicity” などの概念とも関連し、編集における主体の分割と再統合の方法として応用可能です。
まとめ:一人の中に、いくつもの視点がある
編集とは、誰かになることではなく、すでに自分の中にある“いくつもの私”に気づき、その声を聞き分け、編んでいくこと。
多心的エディットは、“私”というメディアをひらくための編集技法です。
それは、複雑な世界に応答するための柔らかなレンズであり、深さを持った表現の鍵でもあります。