音楽から編集へ。響かせるメディア哲学|ACSUREの挑戦 #09

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【はじまり】私の音に、私が励まされていた

私は、吹奏楽部でユーフォニアムという楽器を吹いていた。
あまり知られていない楽器だけど、包み込むような音色で、音楽全体の“深み”を支える存在だ。

華やかな主旋律でもなく、重厚なチューバでもなく、
でも、副旋律や裏のフレーズで、ふと景色が変わるような役割がある。
私の音に乗ってね、と心の中でつぶやきながら吹いていた。

コンクールでは西関東大会まで進み、当時の歴代でもトップクラスの成績を残した。
けれど、達成感よりも「やっと終わった」という気持ちの方が大きかった。
毎日が苦しくて、全力で、でも報われた気がしなかった。

でも、一番うれしかったのは、賞じゃなかった。

自分の奏でた音が、ホールの一番後ろにいる人にも届いていたと気づいたとき。
何年も経ってから、他校の子に「ポン先輩の代は伝説ですよ」と言われたとき。
音って、誰かの心にちゃんと残るんだって思えた瞬間だった。

あのとき、励まされていたのは、私の方だったのかもしれない。

【ゆらぎ】推薦という名の指揮棒に、私は泣いた

学生指揮者に推薦されたとき、
私は本気で、断りたかった。

どうして私なんかが。
どうして前に立たなきゃいけないの。
どうして「できる人」みたいに扱われるの。

一日中泣いていた。

目立つのが怖かった。
誰かの期待を背負うのが怖かった。
それより何より、ちゃんと「できる」自信が、どこにもなかった。

それでも受けたのは、尊敬する先輩の言葉があったから。
「基礎がすべてだよ」

それだけを信じて、私は練習メニューを組んだ。
呼吸法、音の重なり、響き合いを感じること。
主音、三音、五音、七音…縦を揃える、ただそれだけ。
派手なことはできない。でも、必要なことはわかっていた。

曲の指揮はうまくできなかった。
威風堂々だけは、なぜか上手くいった気がする。
きっと、「あの先輩に見てほしい」っていう、
そんな単純で切実な想いが、私の中に火を灯していたんだと思う。

【共鳴】“音に乗ってね”がくれた答え

ユーフォニアムの一番好きな役割は、オブリガートだった。
マーチの中で、裏からふわっと流れる旋律。
聴く人には目立たないけれど、あるとないとでは全然違う。

主旋律を支える喜び。
「私の音に乗ってね」と思える誇り。
前に立つ人の力になることに、私はずっと安心を感じていたのかもしれない。

指揮者になっても、それは変わらなかった。
「音と音の間」をどう繋ぐか。
「誰かの音が生きるための余白」を、どう用意するか。
そればかり考えていた。

それってきっと、今の私の仕事そのものだ。

【昇華】ACSUREは、響きをつなぐ編集の楽譜

私は今、「響きを編集している」と思っている。
音ではなく、言葉で。
でも、やっていることはあの頃と何も変わらない。

誰かの想いを拾い上げ、
それが誰かの心に届くように、響き方を整える。
目立たないけれど、大切な副旋律のように、そっと世界を包む。

派手にバズらせることよりも、
たった一人にでも届いて、「会いたい」と思ってもらえること。
それが、私の奏でる意味。

ACSUREというメディアは、
目立たない誰かの努力に光を当てる“指揮棒”のような存在になれたらと思う。

光の強さじゃなく、角度で支える。
主役じゃなくても、支えられる場所をつくる。
それが私の編集であり、私の音楽なんだと思う。

私は、響かせる人で、ありたかった。
そして今、響かせたい人で、あれている。

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この記事を書いた人

たなかえりのアバター たなかえり ACSURE編集長

「信頼できる人に、ちゃんと出会える。そんなメディアを目指しています。」

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